2012年4月13日金曜日

動物園における「研究」と大学との協力


誰しもが動物園での楽しい思い出を持っていることだろう。動物園は多くの人にとっては一種の遊園地として捉えられている。しかし、現代の動物園の使命は、1993年に国際自然保護連合や世界動物園連盟により公表された「世界動物園保全戦略」の中で、「自然保護センター」とされている(図1)。具体的には、以下のような機能が期待されている。

1.稀少種を保存するためのプログラムの推進
2.種の保存に必要な科学的情報の収集
3.市民に対する環境教育

図1 動物園の役割の変遷(世界動物園保全戦略,1993.)

こうした発想自体は20世紀中盤から提案されており、「楽しみ」はもとより、「種の保存」と「教育」としての役割も果たそうというものである。

日本の動物園も、こうした世界の流れの中で各園がさまざまな形で努力している。その取り組みをより効果的のものにするためには、下支えとして科学的な情報が必要であり、動物園は飼育・展示するだけの施設ではなく、研究をその基盤の1つに持たなければならないということになる。

欧米の動物園における研究の位置付けを考えた場合、まずはその成り立ちが大きく影響している。例えば、最も古い近代動物園の1つと言える英国のロンドン動物園は、ロンドン動物学協会を運営母体として始まった。また、米国のニューヨーク動物学協会(現ニューヨーク野生生物保護協会)が運営母体となってブロンクス動物園が作られた。このように、欧米の主要な動物園は学術的な背景を持つことが多く、獣医学ばかりではなく、動物学を修めた研究者が動物園のスタッフとして参加してきた。


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特に、20世紀中盤にスイスのバーゼル動物園長のへディガーにより新たな学問領域として「動物園生物学」が確立されたことを1つのきっかけに、動物園自体の役割を果たすために研究の機能を高める機運が高まった。その結果、従来からの獣医学領域に加え、保全生物学や動物福祉学といった領域の研究も積極的に動物園で進められるようになった。

ニューヨーク野生生物保護協会は、独自に200名にも及ぶ研究者を有し、フィールドでの保全に関連する研究も数百にも及ぶプロジェクトを立ち上げ推進している。これは動物園が「自然への窓口」になるという発想に基づくものであり、研究成果は「種の保存」や「環境保全」のメッセージとして来園者に対し還元される。例えば、ブロンクス動物園におけるゴリラ展示では、保全プログラムへの寄付行為への参加を通してメッセージを伝えようとしている(図2)。

1998年に米国フロリダに開園したばかりのディズニー・アニマルキングダムには、10数名の研究者が常駐している。専門領域は、獣医学から行動学や保全生物学にまで及ぶ。遊園地のディズニーというイメージとは対照的に、"楽しく見せる"展示はもとより、動物園動物に関する研究(例えば行動学)や、さらには生息地における保全活動への協力を行っている。そして、研究者が来園者の前に出て研究活動の意義を説明したり、ラボの一部を"見学できるような施設づくり"にしたりすることで、来園者への啓発を行っている。


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米シカゴにあるリンカーンパーク動物園には個体群管理センターがあり、米国の動物園水族館協会と協力し、集団遺伝学者を中心により適切な繁殖計画を立案している。欧州も同様だが、協会所属の動物園は、協会が立てた計画に基づき、繁殖個体の移動や精子の提供などが義務付けられている。こうした極めて持続性の高い繁殖計画が絶滅危惧種のみならず他の動物にも実施され、動物園組織内での個体群維持を目指している。

東山動物園における研究活動

東山動物園も多くの日本の動物園と同様に、独自の研究組織を持っていない。そのため、生じた課題に関し、個別に大学の協力を得たりしながら解決を図ってきた。そうした一歩乗り越える工夫として、2008年に京都大学と、2010年に名古屋市立大学とそれぞれ包括的な連携協定を結び協力関係を確立した。具体的には、京都大学とはチンパンジーの飼育環境の改善や、認知能力の展示を推進してきた。後者は、「パンラボ」と名付けた実験ブースの中で、パソコンを用いた認知実験を間近で行って見せている。これにより、来園者に対しチンパンジーの認知能力への理解を促し、また身近に感じてもらうという展示ができている。よりチンパンジーに関心を持ってもらい、さらには森林破壊など環境問題に対する関心を高めてもら� ��ことが狙いである。

名古屋市立大学とは、展示動物から得たサンプルを提供することで、それらのDNAの保存と、DNAバーコードの解析を下に国際的に進められているDNAバーコード・プロジェクトへ寄与している。遺伝的背景を明確にすることにより、それぞれの動物の来歴の追跡が可能になり、コレクションとしての価値も高まるものと考えられる。


なぜ重要な核融合研究

さらに、京都大学とは2カ月に1度、飼育員なども参加する「ワークショップ」を開催し、現場の状況や最新の知見など多様な観点からの情報交換を行っている。また、研究テーマによっては、連携協定を結ばないまでも、他の大学と共同研究を進めている。

日本の動物園のこれからの課題

動物園で行う研究は、大きく2つに分けることができる。1つは、「動物園の目的を達成する」ための研究である。もう1つは、「大学等の研究者の研究を推進、サポートする」ものである。動物園としては、前者としての実利的成果と結び付く課題(臨床や繁殖等)を進める傾向があると言える。しかし、動物園が「自然保護センター」としての位置付けを強めていくには、それらに加え基礎的研究にも取り組んでいく必要があるだろう。このためには、後者の外部研究機関への協力を強めことが有効な手段の1つである。

動物園動物を使った研究で、保全活動に役立つ知見を集めることができると考えられている。また、こういった研究の質を高めるには、心身ともに健全な動物が必要となる。それには、獣医学的管理に加え、それぞれの種が持つ飼育環境へのニーズを明らかにし、行動管理も充実させることが必要となる。この結果、その"動物らしい"振る舞いが可能になり、研究面と同時に教育面においても価値の高いものとなる。

さらに、動物園においては、来園者への効果的な教育を行うための研究も重要である。各動物園のさまざまな努力の効果を科学的に評価する研究は非常に少ない。しかし、こうした評価なしでは、せっかくの努力をより効果的に発展させることは難しい。


前述したように、日本の動物園はほとんどが、独自の研究組織を持っていない。しかし、動物園に期待されている諸活動の基本には、科学的な情報の収集や整理、すなわち研究がある。そのためには、大学等の外部との協力体制を積極的に図ることが不可欠である。さらに、こうした活動を研究補助金等で支援するような体制の確立が必要だと考える。現状の規定では動物園は、研究機関として認められていないが、この認識は早急に改められるべきだ。研究の機能を強化することにより動物園の質的向上が期待できるに違いない。

動物園は、日本だけでも年間2千万人が訪れる施設である。現代的問題として「生物多様性」や「環境保全」が注目されているが、多くの人が訪れる動物園は市民にこれらに関するメッセージを伝える施設としてもっと積極的に利用していくべきである。今の体制では自前で情報収集・整理するといった点において力が足りないことは否めないが、大学等と協力することで、組織的あるいは専門領域的に不足している部分を補うことができる。

これは、単に動物園のみの向上を図るのではなく、そこで生活する動物の福祉の向上、訪れる人への啓発の充実、大学等の社会に対する貢献の推進としても大きな意味がある。

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